最近の欧米でのデジタル音楽の流れは、iPodで出来上がった音楽を聞く仕組みを、家庭のリスニングルームにあるハイエンドオーディオにもあてはめることになってきているようだ。
これらの音楽のデジタル化は、機器のコンピュータ・アプライアンス化の流れでもあり、さまざまなソフトウェアがオーディオ機器やPC周辺にも数多く発生していて、先端のものはオープンソース化まで進展してきている。
先ず、iPodの仕組みとはどんなものかを考えてみよう。
一つは「聴く場所」を限定しないこと。これはもともとソニーのウォークマンが始めたことだ。
二つ目は「ディスクメディア回転ロスの回避」による高音質化だ。ハードディスクやメモリーで解決している。
三つ目は「CDリッピング」であり、CDのたくさんのパッケージをiPodのハードディスクやメモリーにデータファイルとして収容してしまうことだ。
四つ目は「大容量収容」で、ファイル圧縮の程度によって収容できるCD枚数が増減するが、音質とのトレードオフの関係となる。
五つ目は「音楽配信」で、これもファイル圧縮と関係が深い。ダウンロード時間を短縮するにはファイル容量が少ない方が良いが、音質とトレードオフとなる。
ざっと洗い出すとこんなところがiPodが育て上げてきた仕組みと言える。
この仕組みのうち、「聴く場所」だけはリスニングルームに限定して、あとの仕組みを音楽ファンやオーディオマニアに活かすスタイルはどうなるのだろうか?
それは、「ネットワーク・プレーヤー」と「NAS(Network Attached Storage)」の組合せを、無線LANで接続する仕組みになるように思う。
ネットワーク・プレーヤーにより、「ディスクメディア回転ロスの回避」が実現でき、NASによって高音質ファイルの「大容量収容」が可能になる。欧米では「CDリッピング」可能なNASがでてきたり、高音質「音楽配信」をNASにダウンロードすることも行われ始めてきた。
2007年10月、英国の名門オーディオ・メーカーLINNが発表したDS(Digital Source)シリーズが、新しいオーディオの仕組みとしてこのスタイルを提唱した。LINN Recordsのサイトからは、24bit96KHzのStudio Masterグレードの音源がダウンロードできる。他の部屋のPCでこのダウンロードを行いファイルをNASに蓄えて、PCの影も形もないリスニングルームのネットワークプレーヤーで再生し高音質の音楽を聴く。
日本のオンキョーでも、同様の24bit96KHzの高音質ダウンロードサイトe-onkyoを運営しているが、DRM(Digital Lights Management)でガードさせて、マイクロソフトのWMAフォーマットに限定されておりPCが必要となって不自由である。LINN RecordsではFLAC(Free Lossless Audio Codec)フォーマットもサポートされており、最近主流のDRM-freeにもなっている。
ただ、MP3系の圧縮音楽配信と異なり、これらのファイルは極端に大容量となる。アルバム1枚が60~70分あると、そのディスク容量は2.5GB程度も必要になり、ダウンロード時間が数時間におよび大きな問題でもある。
さらに、このLINNのネットワーク・プレーヤーはそれ単体で290万円、安い方でも90万円ととても高価なので、簡単には試すことはできない。
いろいろと調べてみると、面白い製品群が世界には結構あった。
先ずは、「CDリッピング」機能を搭載したNASであるRipfactory社のripserverだ。LinuxOSをベースにミラーリング(RAID1)でデータを保全し、500GBと1TBの2モデルは魅力的だ。オートリッピング機能で、CDの音楽データをFLACやMP3でどんどん吸い上げることができる。前述のLINNのDSシリーズなどネットワーク・プレーヤーの音源供給元として期待が大きい商品と言える。
RipFactory社のWebページ
Slim Devices社のtransporter
次に注目すべきは、LINNに比べれば廉価だが、一般のピュア・オーディオ機器としてはスペック、価格ともにリーズナブルなネットワーク・プレーヤーSlimDevices社のtransporterである。
このプレーヤーは、とにかく面白い。オーディオ機器としてのスペックも、DACに旭化成エレクトロニクスのAK4396を搭載、デジタル入出力はともにCOAX、optical、BNC、AES/EBUのフル装備、さらにはワードクロック入力の端子まで用意されている本格派だ。デジタル入力を受け単品DACとして使用することもできる。画面にはVUメーター表示などがあり、オーディオファンの心をくすぐる。
早速、買ってしまって、その面白さを楽しんでいるところであるが、エージングが必要なのか、今のところ、ちょっとコンピュータくさい音を出しているのが残念だ。
PCやNASにインストールされたSlim Serverというソフトウェアが音楽データを送信するが、そのフォーマットは、圧縮、非圧縮、可逆圧縮などさまざまなものに対応する。24bit96KHzのものまで無線LANを経由して再生できる。またファームウエアやサーバーソフトのバージョンアップで更なるオーバーサンプリングにも対応していくことであろう。これらのソフトウェアはコミュニティが形成されていて、オープンソースとして提供されている。
また、インターネット・ラジオのチップが入っており、PCを起動させなくても世界中の放送局からの音楽を楽しむことができるのも嬉しい。NASのデータもNASが立上っていればPCの起動は不要である。
これらの機器は、ほとんどがLinuxのアプライアンスであり、そのソフトウェアがオープンソースとして公開され始めている。iPodの対極となる高音質なデジタル音楽の世界は、我々のビジネスエリアであるオープンソースと確実に重なってきているので、今後も注目していきたいと考えている。
Slim Devices社のオープンソース・コミュニティのWebページ
最後に、音楽ファンやオーディオマニアにとっては、普段持ち歩いているiPodを家庭のドックにつないで音出しをするより、NASに蓄えた高音質のデータをiPodに転送して持ち歩く方が、理に叶っていると考えるが、いかがだろうか?
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